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surf columnSURF COLUMN 2009/5/20  
Kizuna
Meiko Shinomiya
(株)COSTA BLUE代表
雑誌編集のかたわら翻訳などいろんなお仕事楽しんでます!
湘南・鎌倉在住。波があったら七里ケ浜で入っている、はず…。
FLipper』『SURFERGiRLS』および4月下旬創刊フリーマガジン『湘南SURF JOURNAL』編集長
1回目 2009/4/15 『人生の台本』
2回目 2009/5/20 『サーフボードを持たない旅』
3回目 2009/6/3 『ボーダレスな海』
4回目 2009/6/17 『無人島に行ったら、生き残るのはサーファー?!でしょう』

『サーフボードを持たない旅』


さきほど、17日間のヨーロッパの旅を終え、成田空港につきました。
今、成田エクスプレスの中でこの原稿を書いています。

豚インフルエンザのニュースは耳にしていましたが、成田に着いたらマスクをしている人の多さにびっくり。

ヨーロッパでは、感染者が多い割にはTVニュースや新聞で取り上げられることはほとんどなく
滞在中いろんな国をまわりましたが、マスクをしている人は結局ひとりも見かけずに終わりました。

スペインでも、フランスでも、ポルトガルでも、
誰一人としてインフルエンザのことは気にしていないようでした。

この呑気さが感染者を増やしてゆくのかなあと思いつつも、
何でも過熱報道気味な日本に少し疑問をもってしまいました。
ワイドショーで煽るものだから、日本にいた私の母も心配しまくっていたようで
電話がしきりにかかってきて大変でした…(笑)。

そんな中、私はというと“郷に入れば郷に従え”の精神で
まったくもって呑気に、どこに行っても昼間からワインをがぶがぶ飲み
スペインではイベリコ豚の生ハムもがっつり食べてきました。

今回の私の旅は、おそらく10年以上ぶりにサーフボードを持たない旅。

ひとりで日本を出発し、アムステルダムでイギリスにいた学生時代からの友人と落ち合い合流。

TOKYO→アムステルダム→パリ→ビアリッツ→リスボン→マドリード→トレド→バルセロナ→イビサ島→
フォルメンテーラ島→バルセロナ→モンペリエール→ニース→モナコ→パリ→TOKYOという行程。
移動距離にしてヨーロッパ内だけで3,000km以上。

訪れた国は、オランダ、フランス、ポルトガル、スペイン、モナコと5カ国に及ぶのに、
パスポートに残ったのは、出入国のアムスとパリの記録だけ。

まあ、いいんだけど、なんかちょっと残念…(笑)。

EU内はもちろん、モナコ王国への入国も、パスポートフリー。
パリのシャルルドゴール空港ではビアリッツに飛ぶ際に
ブッキングしていたチケットの名前とパスポートネームが違っていたのに、
名刺を見せたら普通にスルーされたくらいですから…。

「出国」という概念なく、気軽に自由に国外を行き来できるEU諸国の現状が、
小さな島国の日本人である私からすれば非常にうらやましく、
そしてやはりここは大陸でつながっているのだと実感しました。

EU内は現地で安いエアチケットも手に入りますが、今回はあえてほとんどの移動は列車にしました。

成田エクスプレスの成田⇔横浜くらいの料金で(時間は4倍ほどかかりますが)
バルセロナ⇔南仏を旅できます。

移りゆく車窓からのどかな風景を眺めながら
エリアによって変化してゆく言語と、
お国柄による人々の性格の違いを肌で感じられて楽しかったです。

明るくて人懐っこい人たちの多いスペインからの列車では、
車両もわいわいガヤガヤ会話が途切れず(しかも声が大きい!)、
食堂車に行くと、そこは日本で言う立ち飲み屋さん状態になってました。
そこで、ラグビーのナショナルチームの選手たちに出会ったり…。

その中には自らをケリー・スレーターだと自己紹介をしていた
愉快な坊主のサーファーもいました。
スペインのサーフポイントをいろいろ教えてもらいました。

サーフボードを持つ旅では飛行機と車がメイン。
電車で移動するなんてありえないので、私にとっては今回の旅がとても新鮮で、
これまでの旅とはまったく違う発見や出会いがあり、いい思い出になりました。

ところ変わって、恋人達が愛の言葉をささやき合っているフランスでは列車の中も非常に静か。
4時間ほど乗っていたのですが、みんな話しするときも小声で、
ときどき声が聞こえると思って耳をすませば、イギリス人だったりイタリア人でした。

オランダのアムステルダムでは、美しい街並を眺めながら、ベルギービールとおいしい料理を堪能。
そして、危険な香り(!)がプンプンとしている夜を楽しみました。

アムスからは、列車でパリまで移動しシャルルドゴール空港から
ヨーロッパのサーフィン発祥の地と言われているビアリッツへ。

ビアリッツも美しい街並の避暑地で、豪奢な家が立ち並ぶ高級住宅街から
ウェットスーツを着たサーファー(みんなカッコよかった&みんなリップカールのウェット着てました)が、
ボードを小脇に抱えてビーチへ駆けて行くのです。

その後、訪れたポルトガルでも
地下鉄の駅でサーフボードを裸で持って乗り込んでくる人たちをたくさん発見。
8フィートくらいのファンボードも電車に持ち込んでいたのには驚きました。

ヨーロッパは夏の間は、白夜でビアリッツでは
夜の9時前くらいまでは明るいので、
仕事が終わってから海に入れるという、うらやましい環境。

で、サーフが終わってからディナーを食べてワイン飲んで…。
夜までの時間も、夜からの時間もたっぷり楽しんで、
しかも、昼間は1時から4時まできっちりみんなお休み。
お店もスーパーもみんなクローズです。

そして、もちろんみんな昼間からワインのボトルを開けていました。
スペインのバルセロナでは、ばしっとスーツを着たビジネスマンたちが
多く通うレストランでパエリアを食べたのですが、

そこでも、誰一人と漏れず、みんなワインを開け、
エントリーからメインディッシュ、パエリア、デザートまで
すべて平らげていて、その胃袋に、またもやびっくり…。

コレだけ食べたら、そりゃシエスタが必要だわ。

その一日の時間の優雅な使い方に感心しました。
日本もいつかそうならないかしら…?

バルセロナの街にはビーチも隣接していて、
平日の昼間から夏の湘南かと思うくらいに人が溢れていました。
ビーチフロントにはサーフショップもあり、この日は波はなかったですが、
ウィンドサーファーがたくさん海に出ていました。

その後、パーティ・シーズンにはちょっと早いイビサ島を訪れ、
長年の夢だったCafe Del Marでサンセットを眺め
想像していた以上の夕日の美しさと、
Cafe Del Marの雰囲気に失神しそうになりました(笑)。

夕陽が海に沈むタイミングに、寸秒狂わず音楽を合わせてくるその妙にしびれました。

太陽の光が海に飲み込まれると、音楽が終了し
カフェにいた人たちから拍手が起こり、
そして、気分を切り替える音楽が始まるのです。

この日がたまたま夕陽が美しく、音楽も絶妙なタイミングだったのかとも思ったのですが、
その翌日もサンセットの美しさは変わらず、
そして、夕陽に合わせた音楽のタイミングも完璧でした。

イビサ島には50ほどのビーチがあり、全部まわってみたかったのですが、
今回は、ヌーディスト・ビーチとして有名なフォルメンテーラ島まで船で行ってみることにしました。

これがまた最高に美しかったです。
自転車をレンタルして、島を駆け巡りました。
抜けるような青い空と海に映える白い壁の家々が美しかった。

素っ裸でビーチにいる楽しさも初体験。
裸で泳いでみたかったけど、水が冷たかったから萎えてしまい、ビキニを着て入水。

沖の方に見える小さな島まで泳いでみようと思ってかなり長い間泳いでいたら、
強烈なカレントにハマって危うく戻れなくなりそうになって焦りました(笑)。

その他、リスボン、マドリード、パリ、ニース、モンペリエール、モナコ…。
どの街も違う魅力があり、それぞれを短期間ずつでしたが、楽しみました。

どの街を訪れても、やはり一番感心させられたのは、
一日の贅沢な時間の使い方。

午前中3時間働いて、午後1時から4時までは昼休み。
そして4時から7時までまた3時間働き、
たっぷりと時間をかけて家族や友達と食事とワインを楽しんで、
夏はいち早くシーズンの始めからビーチを満喫して、
お陽様の光をたっぷりと浴びて…。

随分前と比べると現代の日本は、まだ比較的生き方にいろんな選択肢ができてきたと思っていましたが、
ヨーロッパの徹底した豊かな生活スタイルには衝撃を受けました。

“豊かな生活”とは何だろう?

経済的に発展していること?

安定していること?

私はどれだけ個人にfreedomが許されているかだと思います。

それと引き換えに“自由であること”の代償も、もちろん発生してくるはず。
“守られていること”を手放さなきゃいけないかもしれません。

でも、そういった生き方をしたいと思う人たちが日本にもどんどん増えてきて、
もっと社会的に発言力を持ち、道を切り拓いていけるといいなあ、なんて思いました。

今回訪れた国の中でも、貧富の差や治安の悪さなど、
いろんな問題がそれぞれの国で山積みになっていると思いますが、
生活の豊かさは、決してGDPの数字だけでは計りきれないと思います。

人がどう生きるのか、その選択肢が豊富にあって、
それぞれの国の歴史や文化が大切に守られていて、自国に誇りを持つ事ができ
その上で、ひとりひとりがいろんなチョイスができる自由な社会。

そんな社会を理想とし、一番近づいていけるのは、やはりサーファーなのかもしれないと
サーフボードを持たない17日間の旅で改めて感じました。

surf columnMeiko Shinomiya
1回目 2009/4/15 『人生の台本』
2回目 2009/5/20 『サーフボードを持たない旅』
3回目 2009/6/3 『ボーダレスな海』
4回目 2009/6/17 『無人島に行ったら、生き残るのはサーファー?!でしょう』
 
 
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