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surf columnSURF COLUMN 2014/8/27  

稲田 邦匡
1964年千葉市生まれ 南房総市在住 千葉大学医学部および同大学院卒業
日本プロサーフィン連盟(JPSA)オフィシャル・サポート・ドクター
日本整形外科学会認定整形外科医
日本体育協会公認スポーツ・ドクター
南洲会 勝浦整形外科クリニック副院長
国際スポーツ医科学研究所(ISMI)監査
競技スポーツとしてのサーフィンの発展のために尽力しています。
1回目 2014/8/20 『サーフィン・ドクターとしての「私とサーフィン」』
2回目 2014/8/27 『競技スポーツとしてのサーフィンの発展性について』
3回目 2014/9/2 『サーフィンの競技特性とスポーツ傷害
「どうしたらパフォーマンスがアップするのか?」』
4回目 2014/9/17 『サーフィンと・・・』

『競技スポーツとしてのサーフィンの発展性について』

第1話では、私がサーフィン・ドクターになった経緯について書きましたが、第2話では、スポーツ・ドクターの目から見た競技スポーツとしてのサーフィンの発展性について書きたいと思います。
ここで言う「競技スポーツ」とは、オリンピック競技種目に代表されるような、競技人口が高く、競技をする選手にとっても、それを観戦する人にとっても楽しく、興奮と感動を得ることが出来るスポーツ種目です。それは、サッカーや野球、ゴルフ、テニス、バレーボールなど、世界規模の競技団体が存在して、ワールド・カップなどが開催され、試合の様子は日常的にテレビ放映されて、その競技に関わるビジネスが存在します。
そこで、私を含めたサーフィンが大好きな人は「なぜ、サーフィンがメジャーなスポーツとして発展しないのか?」と、一度は思ったことがあるのではないでしょうか。その理由を私ながらに考えてみたいと思います。
①世界では? 
ASPでは、サーフィンをサッカーやゴルフなどと同じようなエンターテインメントとしての競技スポーツへと発展させるべく、WCTの大会をESPNで放送するようにしたり、また、リオのオリンピックではサーフィンが公開競技になる可能性があるなど、サーフィンのメジャー・スポーツ化の流れはあるようです。ところが、一昨年に「Quiksilver Pro Gold Coast」を観戦に行ったのですが、意外だったのは大会の様子がオーストラリアのテレビで放送されていなかったことです。サーフィン先進国でも、まだまだサーフィンはラグビーなどのスポーツ・エンターテインメントのレベルでは無いようです。

②見ていて楽しいスポーツか?
野球やサッカーなどの球技では、得点した時の感動がエンターテインメント性につながります。一方、演技系の種目でも、フィギュア・スケートで真央ちゃんがジャンプを成功させれば誰でも感動するし、体操の白井君が床でグリグリと体を捻れば同様です。ソチのオリンピックでのエキストリーム系競技でも、技の名前なんか知らなくても多くの人が驚きと感動を覚えたことでしょう。サーフィンもそうした演技系種目であり、ハワイやタヒチでのWCT選手のチューブ・ライディングは、やはりサーフィンを知らない人でも感動するはずです。しかも、サーフィンは人工的なアリーナやゲレンデではなく、自然のとても綺麗な「海」で行われるスポーツですから、背景自体が見ている人の心を引くことでしょう。

③日本におけるサーフィンは?
日本は四方を海に囲まれ、台風がもたらすウネリが届く各地のリーフ・ブレイクでは、ハワイなどにも引けを取らない素晴らしい波が立ちます。そして、NSA、JPSA、ASP Japanとサーフィンの競技団体が存在し、ジュニア選手の育成から世界への道が用意されています。そして、ジュニアでは世界でいい成績を出す選手が続々と出てきて、明日の「サーフィン界の石川遼」の誕生を願っているサーファーも多いのではないでしょうか。私もその一心で、競技サーファーの診療とサポート活動を行っているわけですが、稲葉玲王君や大原洋人君らの世界での活躍は、全くと言っていいほど一般のメディアには登場しないことをつくづく残念に思います。日本国内のサーフィンの大会についても、地元の新聞などで取り上げられるのがやっとです。
しかしながら、実は体操やフィギュア・スケートなどの演技系種目が得意な日本人にとっては、サーフィンは得意な競技種目であるはずです。現在私はJPSAの「ALL JAPAN PRO」の大会のため、新島に来ておりますが、そうしたことを実感しております。

④では、何が必要なのか?
サッカーでは、今から30年前頃には、現在のように多くの日本人選手が、ヨーロッパのエリート・チームでこれほど活躍するとは誰も想像していなかったと思います。それは、Jリーグが創設されてから、外国人の選手や監督、サッカー留学した選手達から日本の選手もサッカー関係者も多くのことを学び、今では才能あるジュニアが発掘され、プロになって世界に羽ばたくシステムが出来上がっていると言えるでしょう。
では、サーフィン競技が一般の人の目に触れるエンターテインメント・スポーツになるには、何が必要なのでしょうか。それにはまず、競技人口の拡大と競技団体の経済的な発展が不可欠です。野球やサッカーなどは、その競技をしない大多数の人が観戦して成り立つ究極のエンターテインメントであるわけですが、サーフィンの場合は一般のサーファーまたは選手の関係者しか大会の様子をインターネット・サイトや雑誌で見ないので、サーフィンの競技人口が増えるということは、サーフィンが一般のメディアに取り上げられるようになるための最低条件でしょう。
次に、サーフィン業界が慢性的に抱える最大の問題点である経済的な面についてです。競技スポーツが高いレベルで観客に感動を与えられるようにするには、高いパフォーマンスを出せる選手の発掘と育成、監督・コーチ・トレーナーらからなるサポート体制の完備、その競技の活動をメディアに売出す関係者と実際に放映するメディアまで一連の条件が整う必要があります。そこには勿論、視聴率や関連グッズの売り上げなど、儲かる要素が無いとビジネスとして成り立たないのは当然であり、競技サーフィンをエンターテインメント・スポーツに仕立て上げるためには、莫大な費用が掛かります。そのための一つのカギは、特に東日本大震災で津波被害を受けた日本では、海の気象環境と密接に関わるサーフィンに関わる人たちのイメージ・アップかもしれません。また、メディア上でタレント性のあるサーフィン界の「イチロー」「石川遼」が登場してくれる事を切に願います。
さらに、選手の競技レベルの向上のためには、他のスポーツ競技と同様にコーチング・システムとサーフィン専門トレーナーの存在も必要です。近年、ASP WCTでのガブリエル・メディーナをはじめとしたブラジル勢の活躍には驚かされますが、サーフィン先進国オーストラリアのシステムを取り入れているようです。日本でもサーフィンのコーチング・システムは早急に構築しなければならないと思います。

日本人の痩せっぽちな少年が、WCT選手になるまでを綴ったサーフィンの漫画があってもいいかも知れませんね。

surf column稲田 邦匡
1回目 2014/8/20 『サーフィン・ドクターとしての「私とサーフィン」』
2回目 2014/8/27 『競技スポーツとしてのサーフィンの発展性について』
3回目 2014/9/2 『サーフィンの競技特性とスポーツ傷害「どうしたらパフォーマンスがアップするのか?」』
4回目 2014/9/17 『サーフィンと・・・』
 
 
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